みんなの寅さん 復刻コラム ACT5男はつらいよ 望郷篇(その1)

【浦安の節子さん】(2011年5月執筆)

 山田洋次監督が、第2作『続・男はつらいよ』以来メガホンをとることになった第5作『男はつらいよ 望郷篇』には「ふたりのさくら」が登場します。映画「男はつらいよ」のきっかけとなった、フジテレビ版「男はつらいよ」(68年10月~69年3月)で、いもうと・さくらを演じていた長山藍子さんが、マドンナとして出演しているからです。テレビで26回、さくらを演じていた長山さんにとっても、「男はつらいよ」は思い入れのある作品として、マドンナ節子に抜擢されたときは、嬉しかったと、筆者に語ってくださったことがあります。

 第5作『望郷篇』の頃、山田監督は「これで幕引きにしよう」と思っていたそうです。そこで、テレビ版のレギュラーだった長山藍子さん、杉山とく子さん(おばちゃん)、井川比佐志さん(博士)の三人を、もう一つの「柴又」的空間の、千葉県浦安市で、寅さんと再会させるという、テレビ以来のファンにとっては最高のシチュエーションになったわけです。

 北海道の政吉親分(木田三千雄)危篤の報せを受けた寅さんが、機関士をしている親分の息子(松山省二)との出会いを通じて、真っ当に働こうと決意をして、柴又へ帰ってきたものの・・・テキヤの末路の哀れさ、父親と息子の確執、そして北海道を驀進する機関車。前半のダイナミックな展開は、山田洋次作品ならではのテーマが凝縮されて、見るものを圧倒します。寅さんが、何故、労働に目覚めるのか? そのプロセスを丁寧な語り口で描いていく山田作品の醍醐味が堪能できます。

 そして、博(前田吟)に頼んで、裏の工場の職工として「油まみれになって」働く事になった寅さんですが、すぐにヘトヘトになるという展開は、このシリーズの楽しさであり、江戸川に係留していた舟で昼寝をしていた寅さんが、そのまま浦安に流れついて、お豆腐屋「三七十(みなと)屋」の一人娘・節子(長山藍子)に一目惚れをしてしまいます。

 舟で昼寝をしている寅さん、そこに流れる山本直純さんの音楽。まるで落語のようなのんびりとした楽しい展開ですが、後半の「浦安パート」は「もうひとつの柴又」のようなユートピア的な世界が広がって行きます。テレビ版のおばちゃんである杉山とく子さん、そして長山藍子さん、その恋人の井川比佐志さん、寅さん=渥美清さんにとっても、馴染みの人々と過ごす茶の間の日々は、幸福感に溢れています。寅さんは豆腐屋の離れに住み込んで、毎朝、油まみれになって油揚げを揚げ、藤島武夫さんの「月の法善寺横丁」を得意の調子で歌いながら自転車で販売に出かけます。もちろん、その楽しい日々は長くは続かないのですが・・・

 この作品を「幕切れ」と考えていた山田監督でしたが、作品はもちろん大ヒット、寅さんは時代のヒーローとなり、ファンは急増、シリーズは続行されることなり、いよいよ「男はつらいよ」の黄金時代が始まることとなります。

              佐藤利明(構成作家/娯楽映画研究家)



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