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zoom RSS みんなの寅さん 復刻コラム ACT4 新男はつらいよ(その2)

<<   作成日時 : 2019/02/16 16:21   >>

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第4作『新・男はつらいよ』(2013年4月30日執筆)

博「おい、あんたは本当に泥棒か?」
泥棒「は、はい」
寅「何がはいだ、この野郎とぼけやがって」
竜造「おい寅、早く警察を呼んじゃえよ」
つね「その方がいいよ」
泥棒「(泣き声で)ちょっと待ってくれ、お願いですかんべんして下さい、ごめんなさい、もう二度としません。本当です。出来心なんですよ、警察だけはかんべんして下さい、病気の女房と子供が二人待ってるんですよ」
寅「いい加減にしろこの野郎、そんな見えすいた嘘にだまされる俺達だと思ったら大間違いだぞ、この野郎奴、しっかり押さえていろ、今俺が110番に電話するから・・・博、110番てのは何番だっけ?」
博「110です」

第4作『新・男はつらいよ』(1970年2月27日公開)より

 「人類の進歩と調和」をテーマに大阪千里丘で開催される日本万国博覧会に沸き返った1970(昭和45)年。ぼくは寅さんに夢中でした。まだ6歳でしたが、その面白さは、どんな演芸番組よりも、どんなマンガよありも、強烈でした。というか、赤塚不二夫さんの「天才バカボン」「おそ松くん」と「男はつらいよ」が同じインパクトで迫ってきました。映画館で声を上げて笑うこと、みんなでそれこそ大騒ぎしながら寅さんの一挙手一投足にリアクションするということは、今からは想像がつかないかもしれません。

 そういう意味ではこの『新・男はつらいよ』は、子供であるぼくにとっては、最高におかしくて、楽しい作品でした。寅さんが名古屋の競馬の大穴でで100万円を当てて、柴又にタクシーで帰ってきます。柴又土手を走るタクシー。源ちゃんが「名古屋のタクシー! 兄貴が名古屋のタクシーで帰ってきた」と大喜び。そのお金を使って、おいちゃんおばちゃんをハワイ旅行に連れて行こうと、寅さんが思いついたまでは良かったのですが・・・

 という滑り出しの快調さ。脚本は山田洋次監督と、監督助手の宮崎晃さんですが、監督は、フジテレビで「男はつらいよ」(1968年3月〜1969年4月)を企画、プロデュース、そして演出をした、「男はつらいよ」の生みの親の一人、小林俊一さんが手掛けています。もちろん小林さんはこれが映画初演出となりました。ちょうど一年前、フジテレビで「寅さん」の愚かしき事の数々を演出していた小林さんにとっては、映画を演出するという気負いもあったでしょうが、同時に、全26話を演出したディレクターとして、27話目の「男はつらいよ」を手掛けているという意識が強かったのではないでしょうか?

 『新・男はつらいよ』の寅さんは、他の作品に比べて微妙に違います。山田洋次監督の描く世界と、小林俊一監督の世界の違いといえば、そうなんでしょうが、ぼくは『新・男はつらいよ』の寅さんは、言動やキャラクター、その空気も含めて、おそらくはテレビの寅さんに最も近いのではないかと思います。
 「寅さん」というより、映画版に至るすべての原点である「寅ちゃんの魅力」を過今見るような、そんな新鮮な気持ちで、いつも『新・男はつらいよ』を楽しんでしまうのです。

 子供の頃、封切で観た『新・男はつらいよ』の面白さが忘れられなくて、それから一年ほどしての「寅さんまつり」で上映されたときは、父親にせがんでもう一度映画館に連れて行ってもらいました。ぼくが住んでいた足立区にあった北千住の松竹系の映画館です。今はイトーヨーカドーになっているこの映画館はそれこそこじんまりとした町場の小屋です。駅前で今川焼を買って、三本立ての「寅さんまつり」を朝から晩まで観ました。何より面白かったのが、この『新・男はつらいよ』です。

 なかでも、肝心の旅行代金を舎弟・登のつとめる金町の旅行代理店の社長(浜村純さん)に持ち逃げされた「ハワイ騒動」の挙げ句、近所にバレないように、こっそりととらやに帰って来た、寅さん、おいちゃん、おばちゃん、そして食料調達係の博。まるで戦時中の灯火管制のように、真っ暗ななかで、潜んでいると、そこへ、泥棒が入ってきての「泥棒騒動」となります。この泥棒を演じているのが、ぼくらの世代では「花のピュンピュン丸」の主題歌を歌っていたコメディアン、財津一郎さんです。

 財津さんは「〜チョーダイ」「キビシー」のフレーズで、それこそ幼児から子供、お年寄りまであらゆる世代の人気者でした。財津さんの面白さ、財津さんが持っている「何か」は、ここ二十年の「タケモト・ピアノ」のCMで“泣いている赤ちゃんが100%泣き止む”という「探偵ナイトスクープ」の検証のように、人間の琴線に触れる「何か」でもあるのだと思います。財津さんといえば「てなもんや三度笠」の怪浪人・蛇口一角や、写真師・桜富士夫なんてキャラクターも、子供たちに人気でした。『続・男はつらいよ』でも、金町中央病院に寅さんが入院したとき、隣でウンウン唸っている盲腸の患者役で登場。寅さんに笑わされて苦悶する姿に、ぼくらは大笑いしました。

 さて、話が脱線しましたが、その財津一郎さんが『新・男はつらいよ』では、とらや一家がハワイ旅行に出掛けて留守と聞いて、忍び込んでくる泥棒役で再び登場します。冒頭に引用したのがそのシーンですが、「博、110番てのは何番だ?」「110です」という、寅さんと博の会話は、落語の滑稽話のような笑いです。博さんが真面目な顔で「110です」というおかしさ。さらに、ハワイ旅行がパーになったことを、近所にバレたら困る、メンツがつぶれると懸命になっている寅さんの姿。これも子供のときはおかしかったです。そこにつけ込む泥棒のしたたかさ。

泥棒「出て行こうと行くまいとあたしの勝手だろう」
寅「何を?」
泥棒「まだ何もしていないのにしばられてけられたり、叩かれたり挙句の果てに出て行けはひどいですよ」
寅「・・・?」
泥棒「一番電車までおいて貰おうかな・・・」

と開き直ります。このシーンのエスカレートは、実は映画『男はつらいよ』ではあまりない喜劇的な展開なのです。大人になって観直すと、どんどん寅さんが追いつめられていく様は、寅さんの心情を知れば知るほど、つらくなってゆくのですが、ここでの寅さんは「盗人に置い銭」までして、泥棒に出てってもらいます。メンツを保つために。それが、シリーズ初期、テレビ版の寅さんのキャラクターでもあるのです。愚かなことをしでかしてしまった寅さんと、おいちゃんたちが喧嘩となり、寅さんはいたたまれず出て行ってしまう、というこの後の展開は、映画版の前半のおなじみとなるのですが、なんというか「騒動」の質が違うのです。そこに、ぼくは失われてしまったテレビ版の残滓を感じるのです。

 この「ハワイ騒動」は、テレビ版でも描かれています。稲垣俊さんが脚本を書いた、第4回(1968年10月24日放送)で櫻(長山藍子さん)が「ハワイに行きたい」と聞いた寅さんが、競馬で大穴をあてて、おいちゃん、おばちゃん、櫻をハワイ旅行に連れて行こうとします。続く、山田洋次監督が書いた第5回(10月31日放送)では、肝心の旅行会社が倒産してハワイ旅行がおじゃんになります。櫻はおいちゃん、おばちゃんを慰めるために芝居見物に連れて行くことになり、寅さんは留守番を買って出ます。ところがおいちゃんが大事にしているウィスキーを飲んで酔った寅さんがウトウトしていると、そこへ泥棒が入ってきます。寅さんがその泥棒を捕まえてみると、昔なじみの仲間・山本久太郎(佐山俊二さん)だったという展開です。

 泥棒を佐山俊二さんが演じていた、と考えるだけで笑ってしまいますが、この久さんは、テレビ版では寅さんの仲間としてしばしば出演します。櫻の結婚式では、車家の親戚の数が足りないということで、久さんまでかり出されて、スピーチをさせられてしまうことになります。ビデオが残っていないのが、返す返すも残念です。

 このテレビ版が、どんな風に脚色されて、映画版となっていったのか、興味が尽きないところです。『新・男はつらいよ』で、とらやで5千円を貰ってほくほくの泥棒が警官に尋問され、すべてがバレてしまう場面で近所の人が集まってきます。そこで蓬莱屋を演じていたのが佐山俊二さんなので、テレビ版の熱心なファンは「あ、久さんだ!」と、重層的に可笑しかったと思います。

 佐山俊二さんは、山田洋次監督のお気に入りのコメディアンでもあり、『九ちゃんのでっかい夢』(1967年)の間抜けな殺し屋や、『喜劇 一発大必勝』(1969年)の欲深な長屋の住人など「男はつらいよ」以前にもおなじみでした。もちろんシリーズでも、初代備後屋、第9作『柴又慕情』の「貸間騒動」の周旋屋、第17作『寅次郎夕焼け小焼け』のマンションの管理人などで、数多く出演しています。

 「ハワイ騒動」「泥棒騒動」があって柴又を後にした寅さんでしたが、しばらくぶりに戻ってきます。本来ならここで「旅先での寅さん」が描かれているのですが、前作から一ヶ月後の公開であり、スケジュールや予算もあって、旅のシーンはありません。それもテレビ的ととれます。さて、柴又は雨です。帝釈天の山門で雨宿りをする寅さんに、源ちゃんが“大時代のミノ”を見つけてきます。

「とらや」・店内
 店の前を寅が雨にうたれながらツーッと通りすぎて行く。大時代のこなしである。店に出ていたつね、ハッとして。
つね「(奥の方に向かって)ちょっとあんた、寅さんが帰って来たよ」
竜造「えっ、寅が」
 居間の方から出て来る。
竜造「どこに、いねえじゃねえか」
つね「ほら・・・ほら・・・」
 店の前をまた寅が通り過ぎてゆく。
竜造「え?」
つね「何の真似だろう」
竜造「入りにくいんだろう、俺たちが見ているとテレくさくて入れないんじゃないのかい」
つね「気がねしたくたっていいのにね、呼びに行ってやろうかしら、雨にぬれて可哀想だから」

 ミノをかぶった大時代かかった寅さんのスタイル。まるで落語の世界です。それもその筈。このシーンは、山田洋次監督が最も好きな、五代目柳家小さん師匠が得意とした、ある落語が元になっています。そのことについては、5月19日放送の「続・みんなの寅さん」で、ゲストの柳家花緑師匠がタップリと話してくださる予定です。お楽しみに!

佐藤利明(構成作家・娯楽映画研究家)


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