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zoom RSS みんなの寅さん 復刻コラム ACT4 新男はつらいよ(その1)

<<   作成日時 : 2019/02/16 16:15   >>

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【ACT4 愚かしきことの数々・・・】(2012年4月27日執筆)

寅「いいか、フーテンの寅さが血続きのおいちゃん、おばちゃんに何とか恩返しをしてえと思ってな、神仏に願かけて五と六と七、買ったレースがつきについてどうだいこれだけの銭だ、眼を回すな、おばちゃん立ったままションベン洩らすなよ、ざっと百万両だ!」

第4作『男はつらいよ フーテンの寅』(1970年2月27日公開)より

  1968(昭和44)年10月3日から翌1969(昭和44)年3月27日にかけて、フジテレビで毎週木曜日午後10時から45分に放送されていた、ドラマ「男はつらいよ」の企画、プロデューサー、演出を手掛けていたのが、フジテレビの小林俊一さんです。昭和40年代の"渥美清ブーム"の立役者の一人である小林さんと、渥美さんが本格的にコンビを組んだのが「おもろい夫婦」(1966年10月〜1967年3月)です。渥美さんが映画『おかしな奴』(1963年東映・沢島忠監督)で演じた、三遊亭歌笑に再び扮し、中村玉緒さんがダメ男を支えるしっかり女房に扮したホームドラマでした。この番組は好評を博して、翌年には渥美さんと中村玉緒さんによる姉妹編『おもろい夫婦』(1967年10月〜1968年3月)が、やはり小林俊一さんの企画、演出で放送され、それがテレビ版「男はつらいよ」誕生へつながりました。

 テレビ版「男はつらいよ」については、第1話と最終26話しかVTRが現存せず、リアルタイムに間に合わなかった世代としては残念ですが、山田洋次監督が26年48作に及ぶ大河シリーズとして作り上げていくことになった『男はつらいよ』の原点を、イメージするのに最適なのが、その小林俊一さんが監督をつとめた第4作『新男はつらいよ』です。第1作、第2作と映画版を手掛けてきた山田洋次監督でしたが、第3作ではシナリオ共作者でもあった森崎東監督に、第4作ではテレビ版のディレクターだった小林俊一監督に任せ、ご自身はシナリオを執筆されています。

 第4作『新男はつらいよ』は、現在の視点では"異色作"と思われる方もおられるでしょうが、テレビ版の脚本家と演出家による「THE MOVIE」として楽しむのもファンの喜びでもあります。第3作『フーテンの寅』の封切が1970年1月15日ですから、第4作『新男はつらいよ』は封切まで42日。1969年から1970年にかけて、「寅さんブーム」がどれほど凄かったかが、この制作スパンからも伺えます。

 この頃はまだ「夢」が定着していません。冒頭、山あいの峠茶屋で、おばあさん(村瀬幸子)さんが、孫から送られて来たハガキを、郵便配達夫が代読します。それを聞いていた寅さん、柴又のおいちゃんとおばちゃんに想いを馳せ、おばあちゃんに良い顔を見せようと、財布からお札を出して「釣りはいらねえよ」とイイ顔をします。ところがおばあさん「団子と甘酒で百二十円やけど・・・」。寅さんが差し出したのは百円札だったのです。自由民権運動の主導者である板垣退助伯爵の肖像が描かれていた百円紙幣は、1974年8月1日に支払い停止になるまで、流通していました。ぼくらの子供の頃、お年玉は五百円、お小遣いは百円紙幣でもらうことが常でした。寅さんの紙入れには五百円というイメージがありますが、この時は百円紙幣だったのです。ちなみに『新男はつらいよ』の頃、映画館の入場料は大人が55O円でした。

  そんな寅さんがおいちゃん、おばちゃん孝行しようと、名古屋の競馬場で一攫千金を狙います。たまたま出張で名古屋に来ていた、裏の印刷工場の梅太郎(太宰久雄)が、寅さんとバッタリ会うわけですが、このシーンは、シリーズでも珍しい、回想シーンとして描かれています。出張帰りのタコ社長が、とらやに飛び込んで来て、寅さんとの再会を報告するシーンは、おいちゃん(森川信)とおばちゃん(三崎千恵子)のリアクションもおかしく、シリーズ初期のタコ社長のイメージが確立した場面でもあります。

  そして寅さんが大穴で100万円をあてて、なんと名古屋からタクシーで柴又へと帰ってきます。100円から100万円と一気に寅さんが金持ちになってしまう。喜劇的状況が続きます。意気揚々と柴又へ凱旋してきた寅さんの得意げな顔。とにかく元気一杯で、パワフル、観ていて気持ちがいいほどです。寅さんも江戸っ子、宵越しの銭は持たないタイプなので、すぐに近所の衆を集めて宴会、おいちゃんとおばちゃんをハワイ旅行に招待しようと大盤振る舞いです。ところが悪銭身につかず、おいちゃん、おばちゃん孝行のハワイ旅行を、舎弟・登(津坂匡章)がつとめた、金町の旅行会社の社長(浜村純)に持ち逃げされて、大事になっていくのです。

 「競馬で大穴勝負で百万長者」→「ハワイ旅行騒動」という展開はまるで落語のようです。寅さんが「後悔と反省の日々」を過ごすときに「思い起こせば愚かしきことの数々」と回想しますが、『新男はつらいよ』はこの「愚かしきことの数々」の連続で、続く、財津一郎さんの泥棒騒動へとエスカレートしていくのが、何度観てもおかしいです。ハワイ旅行がパーとなっても、派手な見送りをしてもらった手前「持ち逃げされました」と言うわけにも行かず、寅さん、おいちゃん、おばちゃんは、羽田空港からとらやに帰ってきます。寅さんは音を消してテレビを見ても「さっぱり訳がわからなねえな」と、電気をつけるわけにもいかず、おいちゃんは戦時中の灯火管制を思い出したりと、不自由な日々が続きます。ちなみに寅さんが観ている番組は「三匹の侍」(フジテレビ)です。「男はつらいよ」とともにフジの看板番組でした。

 そこへ入ってきたのが、とらや一家が旅行中と思い込んでいた泥棒。演じるは『続男はつらいよ』の金町中央病院のシーンで、寅さんに笑わされて苦悶する入院患者を好演した財津一郎さんです。この頃、財津さんは数多くの喜劇映画の"場面喰い"として文字通りの怪演を見せていました。ぼくらの世代では「てなもんや三度笠」シリーズの浪人・蛇口一角や、写真師・桜富士夫などの強烈なキャラクターや、アニメ「花のピュンピュン丸」の主題歌などで馴染み深いコメディアンでもあります。

 その財津さんと渥美さんの丁々発止のやりとりが、この『新男はつらいよ』のハイライトです。泥棒を縛り上げた寅さん「今、俺が110番に電話するから・・・博、110番ってのは何番だっけ?」と聞くと、博が真面目に「110番です」と答えるギャグに、1970年、6才だったぼくは、腹を抱えて笑いました。このシーンは、何度見返してもおかしいのですが、思い出すだけで笑ってしまいます。結局、寅さんは泥棒に足元を見られて、一万円札を渡してしまいます。「盗人に追い銭」とはこのことです。この映画、100円→100万円→一万円と、つくづくお金に縁があります。

 この泥棒騒動は、テレビ版でも好評だったエピソードだそうで、その時に泥棒を演じていたのが、軽演劇出身のコメディアンの佐山俊二さん。『新男はつらいよ』では、帝釈天門前の蓬莱屋として出演。第9作『柴又慕情』の不動産屋など、シリーズでもたびたび登場。山田洋次監督が愛したコメディアンの一人でもあります。山田作品では坂本九さんの『九ちゃんのでっかい夢』(1966年)での、主人公の命を狙う殺し屋を演じています。佐山さんが殺し屋、というだけでおかしい、そんなコメディアンです。

 そして後半、栗原小巻さん演じる、帝釈天附属ルンビニー幼稚園の春子先生が、とらやに下宿、寅さんが夢中になるという展開となります。渥美清さんとはテレビ「泣いてたまるか」の第12話「子はかすがい」(1966年9月11日放送)で共演していますが、この回は山田洋次監督が脚本、「ウルトラマン」の飯島敏宏監督が演出でした。というわけでテレビ版「男はつらいよ」に間に合わなかった世代としては、この第4作は、さまざまなることに思いを馳せることが出来る、楽しい楽しい一篇でもあります。

 この映画が公開されておよそ一ヶ月後、1970年4月1日から、フジテレビでは、山田洋次監督脚本、小林俊一さん演出、渥美清さん主演のドラマ「おれの義姉さん」がスタートします。渥美さんが演じたのは、マドロスに憧れて二十年前に家を出たきり音沙汰がなかった主人公・沖熊吉。兄・虎男は一年前に亡くなり、今はその妻・沖忍(京塚昌子)がスナック「キャビン」を切り盛りしていた。そこへ噂に聞いていた義弟・熊吉がフラリと帰ってきて・・・。主人公・熊さんの行状が面白おかしく描かれていくのですが、森繁久彌さんが大学講師でユーモア作家の浜野真砂という先生として出演されています(資料協力:正調五円屋本舗さん)。

 渥美さんが少年の頃、船乗りに憧れていたというエピソードをもとに、山田監督と小林俊一さんが作った「おれの義姉さん」には、佐藤蛾次郎さんも出演されていました。ぼくは、この頃、寅さんに夢中だったこともあり、楽しみに観ていました。こちらもVTRが現存しないのですが、山田洋次監督の『家族』(1970年)で、上野の駅前旅館の親父(森川信)が観ているのが、このドラマの一場面なのです。

佐藤利明(構成作家/娯楽映画研究家)



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