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zoom RSS みんなの寅さん 復刻コラム ACT3男はつらいよ フーテンの寅(その3)

<<   作成日時 : 2019/02/09 11:35   >>

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【第3作『男はつらいよ フーテンの寅』】(2013年4月22日執筆)

寅「うん、だけどね、男はいったん敷居をまたいで表へ出りゃ七人の敵がいるっていうぐれえのもんだからな、汗水たらして苦労してかせいで帰ってくるんだからさ、女房としちゃ、やっぱり、スーッと化粧して三つ指の一つもついて、お帰りなさいませ、お疲れさまでしたでしょう、ぐれえのことばはちょっと言ってもれえたいよね、おばちゃんみてえにザンバラ髪でよ、あら帰ってたのかい、風呂わかしてくれよ、なんてのはだめだよ、うーん。亭主が帰ってくる、風呂か先か、スッと面見て分かるようじゃなきゃだめだよ、ねえ、あ、それから、もうひとつ、おばちゃん酒ね、こりゃ難しいよ、酒は人肌、熱くもなしぬるくもなしってね、うーん、こりゃね、燗のつけすぎでさ、こうやってつぐだろう、ここんとこまでもってくる、目へツーンとアンモニアみてえになっちゃうくれえ燗するようじゃ、こりゃ女房としちゃ落第なんだよ、亭主が最後の一しずくを盃にうけてチョッットやる、これをチャブ台に置くか置かねえかにスッと入れちがいに人肌のやつがもう一本出てくる、ここらへんの呼吸をうまく飲み込んでもらわねえと気分よく酔えねえよな、へへ・・・歌の一つも口を出る時はさ、昼間の疲れでトローッと眠くなるんだい、ああ、横になりてえなと思う時にゃさ、スーッと枕が出るんだよ、うん・・・」

第3作『男はつらいよ フーテンの寅』(1970年1月15日公開)より

 「人類の進歩と調和」の日本万国博覧会が開催される1970(昭和45)年1月15日、前作から二ヶ月と短い間隔で、第3作『男はつらいよ フーテンの寅』が公開されました。第二作を撮り終えた山田洋次監督は、会社から「すぐに第3作を」と要請されますが、その演出に、テレビ版や第1作のシナリオを共作していた森崎東監督を推薦しました。
 森崎監督は、松竹京都で時代劇などの助監督を経て、大船撮影所に新設された脚本部に転属。山田監督とは『なつかしい風来坊』(1966年)、『愛の讃歌』(1967年)、『吹けば飛ぶよな男だが』(1968年)、『喜劇 一発大必勝』(1969年)でシナリオを共作しています。これらの作品は、いずれも「男はつらいよ」の原点であり、ハナ肇さんをはじめとする喜劇人が発散するパワフルなチカアは、単なる笑いに留まらず、時代の閉塞感をぶちこわすようなラジカルなエネルギーに溢れていました。

 ぼくは『フーテンの寅』のエネルギッシュな寅さんを見るたびに、山田監督と森崎監督が、これらの作品で描いてきた世界が、寅さんに集約されている、そんな気持ちがします。山田作品をシナリオで支えてきた森崎監督はまた、テレビ版「男はつらいよ」でも第6話から東盛作というペンネームで脚本を担当しています。
 残念ながらビデオが残されていませんが、この回はマクナマラ(マーティ・キナート)というアメリカ青年が、寅さんと意気投合、とらやに下宿してさくら(長山藍子)に惚れてしまう、という物語でした。森崎監督が手掛けたのは第10回、第12回、第15回、第20回の五話となります。2008年、ぼくはCSの衛星劇場「私の寅さん」という番組で、森崎監督にお話をうかがいました。テレビ版の寅さんと、その最終回について、こんな風に話してくださいました。

「何しろ、(渥美清さんは)光り輝くような演技とでもいいますかね。渥美さんは本当は結核を患ったこともあり、真から健康という訳ではなかったんですけども、この人以上に健康な人を知らない、という感じでしたね。だから、それが魅力だったんですけども、ハブに咬まれて死ぬというのは、よくも思いついたもんだなぁと。ぼくは全く参加していないんですけども。「どう思う?」と山田監督が、ぼくに聞いたときに、(周囲から)エライ反対だったんだということを話していましたが、ぼくは「コロッと死ぬなんてのは、面白いと思うけどなぁ」と応えました。(寅さんというのは)特異なキャラクターでしたから、そんな風に消さないと、消せないんじゃないかしら、という気はしますね。」

 その森崎監督は、第1作『男はつらいよ』のシナリオに参加されています。そのとき、山田監督ともども「新しい感じで取り組んだ」ので「テレビ版をなぞろうという気は、二人ともなかった」そうです。第1作で、寅さんが博に言う台詞があります。

寅「早え話がだ、俺が芋食って、お前のケツから屁が出るか!」

 この言葉は、ラジオでもお話したと思いますが、寅さんの情に厚いが、決して他者とはまみえない、スタンスを表明した名台詞です。森崎監督によれば、これは「ぼくの伯母さんがちょっろっと言った台詞」を覚えていて、シナリオに活かしたそうです。また寅さんのフレーズとして定着した「労働者諸君!」という言い回しも、森崎監督の義兄の口癖だったそうです。熊本県天草生まれの森崎監督によれば「そういう郷里の民衆性が、寅さんに乗り移っているみたいな気がする」とのことです。山田監督とシナリオを共作しながら「こういうフレーズはどうだろう」「これは?」と話し合って、それを渥美さんが持っている天才俳優としての希有な才能によって、車寅次郎のキャラクターが出来上がっていったことがわかります。

 そんな渥美さんが演じる寅さんの「非常に濃厚な庶民性」が、山田監督も自分も好きだったんではないか、というのが、森崎監督の分析です。ぼくもそう思います。また、森崎監督から、松竹京都撮影所で助監督をしているときに「ニワトリはハダシだ」というフレーズが伺ったことがあります。寅さんの「タコはイボイボ、ニワトリはハタチ」というフレーズの原点です。

 その森崎東監督は、『男はつらいよ』第1作が公開されてほどなく、渥美清さん主演『喜劇 女は度胸』で監督デビューを果たします。この作品は「男はつらいよ」が愚兄賢妹ものだとしたら、トラックの運転手をしている粗野な渥美さん扮する兄貴と、マジメな堅物の労働者の河原崎健三さん扮する弟がおりなす愚兄賢弟ものです。羽田空港近くの広告ネオンサインの下に、清川虹子さんの母親と花沢徳衛さんの父親と四人で暮らしているのですが、渥美さん扮する勉吉のキャラクターがとにかくパワフルで面白いのです。山田監督も森崎監督も惚れ惚れしたという渥美さんの口跡の鮮やかさ、エネルギッシュな生命力に溢れたキャラクター造形は、感動的ですらあります。

 この『喜劇 女は度胸』が公開されてほどなく、森崎東監督は第3作『フーテンの寅』を撮ることになるわけです。監督第2作ということもあり、森崎監督は自身のなかにある“香具師・車寅次郎”を徹底的に描こうと、渥美清さんと話をしながら、“旅先での寅さん”の物語を考えます。格差社会での一番底辺にいる寅さんを描こうとしたそうです。香具師の世界を描くなら」、ちゃんと香具師の世界を描いてみようと。しかし、その森崎カラーを出す事は、山田洋次監督の世界から遠ざかっていくことでもあり、結果的に森崎監督は、山田監督と宮崎晃助監督、テレビの演出家・小林俊一さんのシナリオをもとに、テレビからのファン、映画で寅さんに親しんでいるファンが納得するようなかたちで『フーテンの寅』を撮ることになります。

 冒頭の木曽奈良井の旅館・越後屋での風邪を引いて寝込んでいる寅さんの孤独に、森崎監督の念頭にあった「テキ屋の世界というのは、本当に孤独な旅の空」のイメージの片鱗が伺えます。悠木千帆(現・樹木希林)さん扮する女中さんに、とらや一家の写真を見せる寅さん。おいちゃん、おばちゃんをお袋と親父といい、さくらを女房、満男を子供という寅さん。一人になって写真を眺めながら「いくら可愛くっても妹じゃそうがねえや、はぁ」と溜息をつく。そしてくしゃみをして「落ち目だなぁ」と呟きます。寅さんの“自分の家族が欲しい”という願望が込められています。

 タイトルバックは江戸川ではなく、神社の境内で寅さんが“がまの油売り”をしている姿から始まります。香具師の代名詞でもある“がまの油売り”ですが、寅さんがしているのは、後にも先にもこの回だけです。そして旅先の寅さんのスケッチが続きます。トレンチコートに白いマフラー。ちょっとギャング映画の顔役のようなスタイルですが、コートの襟を立てて、人目をはばかるように海辺を歩く寅さん、まるで誰かに追われているような逃亡者のようでもあります。続いてタイトルが空けて寅さんが、柴又に帰ってくるシーン。向かいの公衆電話からとらやに電話をする笑いがありますが、寅さんが刑事に追われて逃亡中、という、森崎監督が最初に考えていた場面の名残りでもあります。

 寅さんが刑事に追われるなんて! と後の寅さんを知っているわれわれは信じられませんが、第2作『続・男はつらいよ』で、寅さんと登(津坂匡章)が焼肉屋で無銭飲食をして警察の厄介になるシーンもありましたので、そういう発想もあったのだと思います。この後、タコ社長が持ちかけて、川千屋の女中(春川ますみさん)と寅さんがお見合いをします。それが寅さんの昔馴染みの女性だったという笑いとなります。二人の結婚式、熱海への新婚旅行のハイヤーまで呼んで、そして例によって大げんかとなり、寅さんは旅の人となります。

 そしておいちゃんとおばちゃんが三重県湯ノ山温泉に、夫婦水入らずで旅行に行くと、その温泉旅館で番頭をしているのが寅さんだったという、思い出すだけでもおかしい展開となります。そこからは“旅先の寅さん”のドラマとなります。シリーズ全作を観た上で、改めて第3作『フーテンの寅』を観直すと、やはり、良い意味での異色作になっていると思います。

 その湯ノ山温泉の旅館で、寅さんが余興の最中に、意中のマドンナで旅館の女将・志津(新珠三千代さん)の名前を叫んでしまうと評判になっていると、女中・お澄(野村昭子さん)がおいちゃんとおばちゃんに説明します。そして次のシーンで、宴会客が東海林太郎さんの「旅笠道中」の三番を歌っています。

染奴(香山美子さん)「それじゃどうあっても行くのかえ?」
客「ご両人!」
寅「とめてくれるな、そこが渡世人のつれえーとこよぉ〜」
千代「ねね、お客さんお客さん、これから」
染奴「銀平さん!」
千代の声「ここよ」
寅「お志津!」

 観客の笑いが一気に爆発する名場面です。ここで歌われる「旅笠道中」は、森崎監督のお気に入りで、1998年に浅田次郎さん原作の『ラブ・レター』という映画のなかで、中井貴一さん扮するやくざが、お金のために偽装結婚した、一度しか会っていない中国人女性(耿忠さん)が亡くなったときに、日本に出稼ぎに来ている彼女が旅役者のスタイルで「旅笠道中」を踊るイメージカットが入ります。切ないこの名シーンをみたとき『フーテンの寅』の「お志津!」を思い出してしまいます。しかも『ラブ・レター』で、この場面の振り付けを担当していたのが、「男はつらいよ」シリーズで旅役者・大空小百合を演じていた岡本茉利さん!という奇縁!

 というわけで、第3作『フーテンの寅』は、車寅次郎の旅先の孤独を描いた一本として、異色作でありますが、大好きな一本です。

佐藤利明(構成作家・娯楽映画研究家)



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