佐藤利明のTICKLE ME 娯楽映画と音楽と

アクセスカウンタ

zoom RSS みんなの寅さん 復刻コラム ACT3男はつらいよ フーテンの寅(その2)

<<   作成日時 : 2019/02/09 11:30   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

[ACT3 放浪の寅さん](2012年4月20日執筆)

寅「分っておりますよ、アンさんご同業でござんしょう、長の年月、稼業、おつかれさんでございました。遅ればせながらの仁義失礼さんでござんす。私、生まれも育ちも関東、葛飾柴又です。渡世の上故あって、親、一家をもちません、カケダシの身もちまして姓名の儀、一々高声に発します仁義失礼さんです。姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します。西にいきましても東にいきましてもとかく土地土地のおアニイさんおアネエさんにご厄介かげがちなる若僧でござんす。以後面体お見しりおかれましてキョウコウバンタン引き立ってよろしくおたのみ申します」

第3作『男はつらいよ フーテンの寅』(1970年1月15日公開)より

ぼくらは旅先の寅さんに、美しい風景を歩く“放浪の旅人”というイメージを抱いています。真夏の暑い日差しのなか、あるいは晩秋の夕暮れ、寅さんはトランクをさげて、歩いています。寅さんの仕事はテキ屋です。秋祭りの縁日、豊漁を祝う港町の祭り、そして初詣で賑わう神社やお寺の参道で、見事なタンカ売で、道行く人を魅了します。それが寅さんの生業です。立て板に水の寅さんの口上、タク売は、いつ聴いても惚れ惚れとします。特にシリーズ初期、渥美清さんのみなぎるエネルギーの発露、ともいうべき鮮やかな口上が、実に魅力的です。

「旅先の寅さん」「テキ屋としての寅さん」は“どんな生き方をしているのだろう?” 第3作『フーテンの寅』の演出をするにあたって、森崎東監督は“テキ屋稼業”にスポットライトを当てようと思ったそうです。森崎東監督は、昭和31(1956)年、松竹京都撮影所に入社、助監督として京都で過ごしたとき、撮影所での仲間の合言葉が「ニワトリはハダシ」だったそうです。この言葉が、後に寅さんの「タコはイボイボ、ニワトリゃハダシ」というフレーズになり、いつしか「ニワトリゃハタチ」になっていきました。

その後、大船撮影所に移動した森崎監督は、山田洋次監督の第2作『下町の太陽』(63年)に助監督として参加。『なつかしい風来坊』(66年)や『愛の参加』(67年)などの山田作品では、共同脚本も手掛けています。『吹けば飛ぶよな男だが』(68年)の頃、森崎監督は、山田監督から、渥美清さんと会ったこと、テキ屋の世界を描こうと思っている話を聞いたそうです。渥美清さんの「四谷赤坂麹町 チャラチャラ流れるお茶の水〜」のタンカ売の口上に、感動して、それを山田監督が嬉しそうに再現してくれたそうです。「すごいんだよ、渥美さんのタンカ売ってのは」と、山田監督の話を聞いた森崎監督は「次の映画の題材かな?」と思ったそうです。

それが映画ではなく、1968年10月にスタートするフジテレビの「男はつらいよ」の企画で、森崎東監督も第6話から、東盛作というペンネームで脚本に参加することとなったのです。山田監督も、森崎監督も、天才俳優・渥美清に惚れ込んで、寅さんの世界を作り上げていったと思われます。森崎さんは、渥美さんを“光り輝くような演技”をする俳優と、かつてぼくに話してくれました。

そして1969(昭和44)年、寅さんはテレビから映画の世界へと舞台を移すこととなります。その第1作『男はつらいよ』の脚本は、“寅さん”の生みの親である山田洋次監督と森崎東監督の共作です。このとき、二人はテレビ版をそのまま映画にするのではなく、全くの新作として、車寅次郎という人物を掘り下げ、柴又の人々の世界を構築していったそうです。第1作の名台詞「俺が芋食って、お前のケツから屁が出るか」は、森崎東監督の叔母さんの言葉がヒントになっていて、「労働者諸君!」という言い回しも義理のお兄さんがよく使う言葉だったそうです。森崎監督曰く「郷里の民衆性が寅さんに乗り移って」いて、渥美清という稀有な俳優のキャラクターと相まって、寅さんに「濃厚な民衆性」をもたらしている、と伺ったことがありますが、なるほどと納得です。

第1作『男はつらいよ』が封切られてほどなく、森崎東監督は山田洋次監督の原案で、監督デビュー作『喜劇 女は度胸』にとりかかります。主演は渥美清さん。パワフルで粗野なトラック運転手の兄(渥美清)と、気が弱いインテリの弟(河原崎健三)の“愚兄賢弟”と家族が織りなす、パワフルな重喜劇となりました。ここでの渥美さんが、実にハツラツとして健康的なのですが、森崎監督はそれが、若い時に病気で苦労をした渥美さんの“健康への憧れの発露”だったのではと、分析されています。この『喜劇 女は度胸』は、初期のパワフルな寅さんがお好きな方には、ぜひご覧頂きたい傑作です。

そして森崎東監督は、監督2作目に、シリーズ第3作『男はつらいよ フーテンの寅』の監督に抜擢されることとなります。その時、森崎監督が考えたのは「旅先の寅さん」を描きたい、ということ。柴又で「寅ちゃん」と呼ばれ、厄介だけど家族に愛されている、とらやの車寅次郎ではなく、旅先でテキ屋の厳しい世界を生き抜いている渡世人としての「寅」を描きたかったそうです。渥美さんとテキ屋の世界について語り合ったこと、ふと垣間見える渥美さん自身が生きて来た厳しい世界と重ね合わせて、描こうとしたそうです。

『フーテンの寅』の冒頭は、長野県塩尻市木曽奈良井の旅館・越後屋で、風邪をひいてショボクレている旅先の寅さんから始まります。落ちぶれていて、侘しい、テキ屋の寅がそこにいます。タイトルバックは、帰郷のシーンではなく、何かに追われるようにいそいでいる旅先の寅さんの姿がユーモラスに描かれています。この回の寅さんは、トレンチコートに白いマフラー、まるでフランス映画のジャン・ギャバンのような出立ちで、柴又を去って行きます。シリーズ全作を通しても、この『フーテンの寅』は異色作です。異色であるけども異端ではない、とぼくは思います。旅先の寅さんを垣間みた、そんな気持ちで、いつも『フーテンの寅』を観てきました。

冒頭に引用したのは、寅さんが三重県の湯の山温泉で一目惚れした旅館の女将・志津(新珠三千代)の弟・信夫(河原崎健三)の恋人で、芸者の染奴こと染子(香山美子)の父親・清太郎(花沢徳衛)が、かつてテキ屋だったことを知って、寅さんが仁義を通すシーンのセリフです。染子は、今は病に臥せっている父の面倒を見るために芸者をしていることがわかり、それでも相思相愛の信夫と染子は駆け落ちをする決意をします。

寅さんは「東京は浅草の観音様の境内に、お父っあんみてえなテキヤのナレの果てばかり引き取ってな、ゼニもとらないで治療してくれる奇特な医者がいるんだ」と、自分のネットワークで、清太郎の余生はなんとかなると、若い二人を安心させます。二人が出て行ったあと、清太郎がかつて名のあるテキ屋だったことを察知した寅さんが、今は落ちぶれている、この道の大先輩に敬意を表して、仁義を通すのです。このシーン、セットですが、窓から見える風景は、四日市の石油コンビナートのばい煙と炎。まさに高度成長真っただ中、掃き溜めのような底辺で暮らす人々を、森崎東監督の視点で描いています。鼻水を垂らしながら泣く清太郎、名優・花沢徳衛さんのうまさが際立ちます。「男はつらいよ」としては異色かもしれませんが、森崎東作品の王道ともいうべき名場面です。

その後、森崎東監督は、渥美清さんとのコンビで『喜劇 男は愛嬌』(70年)というパワフルな重喜劇を手掛けられます。ボルネオ帰りの主人公が、平和な人々の日常をかき回すという、ハナ肇さんの「馬鹿シリーズ」や、渥美さんと野村芳太郎監督の『喜劇 でっかいでっかい野郎』(69年)から連なるタイプの重喜劇です。この渥美さんも絶品です。そして、山田洋次監督の「男はつらいよ」が連作されるなか、森崎東監督は森繁久彌さんと『喜劇 女は男のふるさとョ』(71年)にはじまる「喜劇・女シリーズ」(または「新宿芸能社」シリーズ)で、松竹喜劇を独自のパワフルでエネルギッシュな作品群で、支えることとなります。

「寅さん」を世に送り出した山田洋次監督と森崎東監督が、再び松竹のスクリーンでコンビを組むのが、それから24年後、『釣りバカ日誌スペシャル』(1994年)でした。この時のハマちゃんとスーさん、それまで見せたことがないほど、パワフルで強烈なインパクトがありました。『フーテンの寅』と『釣りバカ日誌スペシャル』、いずれも刺激的異色作がゆえに、ぼくの大好きな作品です。

佐藤利明(構成作家/娯楽映画研究家)

男はつらいよ・フーテンの寅 [DVD]
松竹
2017-08-30

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト



寅さんのことば 風の吹くまま 気の向くまま
中日新聞社
佐藤利明

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト



男はつらいよ 寅次郎音楽旅~寅さんのことば~
ユニバーサル ミュージック
2014-04-16
サントラ

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト



男はつらいよ 寅次郎音楽旅~寅さんの“夢”“旅”“恋”“粋”~
USMジャパン
2008-11-26
映画主題歌

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト



男はつらいよ 続・寅次郎音楽旅~みんなの寅さん~
SMD itaku (music)
2011-11-23
山本直純

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト



男はつらいよX徳永英明 新・寅次郎音楽旅
ユニバーサル シグマ
2012-11-21
サントラ

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
みんなの寅さん 復刻コラム ACT3男はつらいよ フーテンの寅(その2) 佐藤利明のTICKLE ME 娯楽映画と音楽と/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる