神保町シアター 『喜劇 泥棒大家族 天下を盗る』(72年坪島孝)

神保町シアターでの「喜劇映画パラダイス」いよいよスタートしました。

今回の上映のセレクトとチラシやWEBなどでの解説を担当させていただいております。次号の映画秘宝(5月21日発売)では、「カックン映画超特急」と題して、これらのアチャラカ映画の魅力を、どーんと特集しておりますので、読んでください!

そして5月23日(日)の『九八とゲイブル』5時45分の回上映終了後には、瀬川昌治監督、「面白グループ」の高平哲郎さん、そして佐藤利明によるトークイベントもあります。最終回後なので、タップリとお話をさせていただけるかな、と思っております。皆様、ぜひ、足をお運びください。

http://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/program/index.html


さて、「幻のクレージー映画」のお話です。ネタバレも含んでますので、ご注意ください。

1972.10.28 喜劇 泥棒大家族 天下を盗る

神保町シアターでの「喜劇映画パラダイス」で上映している、東宝クレージー映画最終作を、実に20数年ぶりに細見しました。この作品をクレージー映画に入れるかどうかでは、13年前に上梓させていただいた「無責任グラフィティ 東宝クレージー映画大全」(フィルムアート社)の時にも、さまざまな意見が飛び交い、結局『日本一のショック男』までとしましたが、僕個人としては、これをフィナーレと考えております。

で、5月17日、神保町シアターで、夕方の上映を観たのですが、いやぁ、面白かった。東宝クレージー映画としてではなく、植木等さんの映画として、実に面白いと思いました。ご存知のように、これは九州のかつて炭坑だった「泥棒村」を題材にしたものです。原作は加藤延行さんの「泥棒村潜入記」。閉山となった炭坑の炭住に住むかつての炭坑夫とその家族たちが、生活のため、都市にでかけて集団万引きをしていた、という実際にあった話だそうです。この話を結城昌治さんが小説にしたのが、野村芳太郎監督が映画化した『白昼堂々』(1968年)です。さらに、森崎東監督がリメイクしたのが『喜劇 女咲かせます』(1987年)。

というわけで、同じ題材を、野村芳太郎監督、坪島孝監督、森崎東監督の三人が映画にしているわけです。

『白昼堂々』→渥美清さん
『喜劇 泥棒大家族 天下を盗る』→植木等さん
『喜劇 女咲かせます』→田中邦衛さん(主演は松坂慶子さん)

その三者が、泥棒村のリーダーをどう演じ、三監督がどう描いたかを、観る愉しみ、それが映画ファンに与えられた特権でもあります。

坪島孝監督は、『日本一のショック男』でその生みの親でもある田波靖男さんともども、「無責任男」の幕引きをした後に、この「泥棒村潜入記」の映画化に取り組みました。ですから、映画そのものが「脱クレージー映画」なわけです。でも、ハナ肇さん、(71年に引退した)石橋エータローさんをのぞく、クレージーのメンバー5名が出演し、さらに植木さんの付人だった小松政夫さん、ハナさんの付人だったなべおさみさん、さらにザ・タイガース解散後の岸部四郎さんといった、渡辺プロタレントが出演して「渡辺プロ映画」の1970年代の新機軸を目指した作品でもあったわけです。

フィナーレとリニューアル。それが同居しています。猪狩時之助(植木さん)はかつて炭坑で、過酷な労働条件に対抗して会社とやりあった猛者という「過去」があり、その時に足を怪我して不自由な身体になったという設定です。そして大鹿タツノ(ミヤコ蝶々さん)との間に四人の娘がいて、炭坑閉山後、家族を養うため、仲間たちの生活のために、万引き集団を結成、ボスとなっています。

大学出の門次郎(谷啓さん)は、長女・冬子(山東昭子さん)と結婚し、万引き集団の要となっていて、さらに関西からの流れ者・馬上千吉(藤田まことさん)は、妹・アケミ(八並映子さん)を、時之助に上納して、ナンバーツーに収まっています。彼らが、時之助の指令を受け「出航」という名の、万引き行脚を全国で展開、奪った品を故買屋・山森松蔵(三木のり平さん)に売ることで多額の現金を得ている、というわけです。

集団劇として、さまざまなキャラが登場しますが、特に次女・春子(太地喜和子さん)は、亭主・長一(犬塚弘さん)が刑務所に入っている間に、間男をひっぱりこむほどの男好き。フェロモン、ムンムンでそれがまたイイのです(笑) 谷川昇作(なべおさみさん)、小西恒夫(小松政夫さん)、大岡明男(阿藤海さん)たち、村の若い連中が、長一の要望で仮の亭主のオーディションを受けるシーンがあるのですが、これが東宝クレージー映画に相応しくないお下劣さ! それがイイのです。もう、何もかも、約束事から開放された爽快さが、下ネタにもあふれています。

で、狂言回しのヒロイン・夏子には、江夏夕子さん。ここポイント高いです(笑)江夏さんの相手役に、間抜けなスリの若者・草田進に扮した岸辺シローさん。万引き集団の軍資金を持ち逃げしてしまう、村の若者に小沢直平さん、本田みちこさん!(嗚呼懐かしい!)。

といったキャストのさばき方も『クレージー黄金作戦』を仕上げた坪島監督ならではの腕、前半、鮮やかな集団劇が展開されます。そして、村の駐在で、いつかは時之助たちを挙げようと思いつつ、彼らの事情を一番良く知るがゆえに、共存というかたちをとっているのが、伴淳三郎さん扮する森川巡査です。

植木等 VS 伴淳 というのが、この映画の対立の構図でもあるわけです。この伴淳はなかなかイイです。そして、血気盛んに、彼らを捕縛せんとしているのが、この村に赴任してきたばかりの若い藤山巡査(米倉斉加年さん)です。この藤山巡査、この後『男はつらいよ 葛飾立志篇』や『同 寅次郎かもめ歌』に登場する米倉斉加年さんの巡査を思わせます(笑) しかも、警察署長がタコ社長の太宰久雄さん!とくれば、「寅さん」ブームのすさまじさを感じます(笑)

さて、世代限定ではありますが、この映画を観て「!」驚いたのが、紀乃比呂子さんです。ミヤコ蝶々さんの四女・秋子役なのですが、彼女だけ稼業を嫌って、東京で働いているのですが、その仕事はなんと日航のスチュワーデス!「アテンションプリーズ」人気とはいえ、同じ東宝制作ですが、イイんですかい?(笑) でも、久々に紀乃さんのスチュワーデス姿を拝見して、往時がよみがえりました(笑)

さて、坪島作品としての味わいは、なんといっても無駄骨装置でしょう。野村芳太郎版でも、警官が泥棒村を尋ねてくるときに、サイレンを鳴らして、盗品をズラリと並べている”文化生活”を隠すシーンがありましたが、さすがアメリカ喜劇好きの坪島監督です。村人が生活保護を受けているので、民生委員(桜井センリ)さんが調査にやってくるのですが、その報せが入ると、スイッチ一つで、ゴージャズなベッドやテレビ、ソファーのある植木さんや谷さんの居間が、あっという間に、オンボロのしもた屋に変化するという『仕掛け』が施されているのです。これがおかしい。

と、長くなってきましたが、この映画、やっぱり植木さんの魅力です。足が不自由という設定で、前半、ほとんど動かないのです。ああ、植木さんも老けたなと、観客にインプットしつつ、チャイナドレスの八並映子さんをいつもはべらせている好色家=無責任オヤジという絵柄で、しかも老けメイク。これにだまされてはいけません(笑) でも、確かに東宝クレージー映画の勢いでオールナイトなどで観ていると、あれ、これは違う、と思ってしまうかもですが、それが狙いでもあるのです。

で、あることをきっかけに、植木さんが大変身をするのですが、これぞ、坪島孝監督の愛した「無責任男にスイッチする瞬間」の演出なのです。『日本一のワルノリ男』では田舎の駐在さん、『日本一のショック男』では田舎教師で、ズーズー弁の植木さんが、東京に出て来て赤い(しかもストライプの)背広を身につけた瞬間に、鮮やかに「無責任男」に豹変するおかしさ! これは坪島監督の味でもあるのですが、なんと本作でもそれが味わえます!

スクリーンで久々に観て、その豹変ぶりに惚れ惚れしました。やっぱり、植木さんですよ。これでなくっちゃ!

ラストも鮮やかで、坪島監督らしい味わいのある作品となっています。

で、驚いたことがもう一つ。『白昼堂々』『喜劇 泥棒大家族~』『喜劇 女咲かせます』の三作に共通しているのは、なんと、万引き集団がクライマックスに大暴れするデパートが、いずれも松屋ということです。しかも浅草松屋!『女咲かせます』では、銀座松屋(『銀座の恋の物語』で記憶を失った浅丘ルリ子さんがつとめていました)でしたが、こんな題材なのに協力をするなんて、さすが老舗!

というわけで、未だにソフト化もCS放送もされない「幻の」クレージー映画。ぜひ、劇場でご覧ください。

今回は、『ニッポン無責任時代』前夜の松竹での、『クレージーの花嫁と七人の仲間』の改題再上映版『乱気流野郎』も上映しております。最初と最後のクレージー映画というのがミソです。

この『~七人の仲間』は、番匠義彰監督の「花嫁」シリーズとクレージー映画の融合というのが、たまりません。そして渡辺プロ総出演のなか、中尾ミエさんがスリーファンキーズと「通りゃんせ」を唄うシーンがありますが、中尾さん的にはこれがデビューでしょう。

また、クライマックスに「五万節」を、植木さん、谷さん、ハナさんが唄うシーンがありますが、ここに集ったギャラリーが凄いですよ。しかも前奏、間奏、がななんと「九ちゃんのズンタタタ」(青島幸男作詩)なのです。「五万節」と「九ちゃんのズンタタタ」の融合! CD未収録のこのヴァージョンだけでも価値がありますぜ!

というわけで、クレージーと「お姐ちゃん」シリーズの融合が『ニッポン無責任時代』とするならば、その直前、クレージーと「花嫁」シリーズの融合が『クレージーの花嫁と七人の仲間』だったことが、これでおわかりいただけると思います。渡辺プロの戦略だったんですね!


クレージー映画大全―無責任グラフィティ
フィルムアート社

ユーザレビュー:
納得の1冊最近、邦画 ...
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る


画像
画像

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック